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Archive for the ‘医療従事者の部屋’ Category

2010 年 新しい論文です!

2 月 13th, 2010
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毎月一回出版される、ザ・クインテッセンスの2月号の巻頭特別企画として私の論文が掲載されています。

テーマは、「オーバートリートメントとアンダートリートメントの境界とは?」というもので、日頃、私が提唱している「科学」と「患者さん本位」の融合、「科学的根拠に下支えされた患者本位の医療」について考えるものです。以下にこの考えのベースのお話を記載します。

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吉田松陰が平戸に留学中に読んだ清の時代の書によると、

「古(いにしえ)にならえば今に通ぜず、雅を選べば俗にかなわず」

と書いていたといいます。

これは、古い学問ばかりを勉強していると、現今ただいまの課題がわからなくなる。また、格調の高い正しい学問ばかりやっていると、実際の世界の動きにうとくなる」という意味です。

もっとわかりやすく言えば、「時として、あまり高尚な学問だけに身をおいていると、実際の人の社会とはかけ離れたところに行ってしまい、現実を見失ってしまうことになる」といった内容のものでした。私の考えも全く同じで、科学という言葉を自然科学だけと捉えて、患者さんの背景に眼をそむけるのは医療の本質からはずれてくると考えます。

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基礎医学の世界ばかりを勉強していると、現今ただいまの臨床がわからなくなる。また、エビデンスの追求ばかりやっていると、実際の患者の立場にうとくなる」

となります。ここで大切なことは、どちらに傾くのでもなく、バランス感覚を磨き、個々の患者さんに最適の治療を身につける努力と、それをしっかりと伝える話術を身につけることです。

今月号は、巻頭特集ということで、本の表紙も私の論文をモチーフにしたデザインとなっています。

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admin JIPI, 医療従事者の部屋, 患者さんの部屋, 雑感

スペインでの再会!

2 月 9th, 2010
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1月のスペイン出張では、BORG(バルセロナ・オッセオインテグレーション・リサーチ・グループ)という世界的に有名なスタディグループの先生たちと勉強会をしました。私は個人的にはXavier Vela先生と友達であり、今回の勉強会が実現し、今後は共同研究などを行うことを約束しました。実に4時間あまり、さまざまな研究や臨床の意見交換をできて、私はとても満足しました。

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その夜は、BIOMET 3i主催の夕食会に招待していただきました。いつも思うのですが、海外では余分なストレスなく、楽しく過ごすことができる私は、日本向きではないのかもしれません。本当のことを心から話せる仲間は大切だと思います。

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パーティの後、BORGの先生たちと記念撮影。みんな本当に親切にしていただき、感謝!感謝!です。

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その他には、マドリッドのグループの先生たちとも親交を深めることができ、来年もここで再会することを約束しました。今年は参加できませんでしたが、来年はBIOMET 3iのイベリアン・シンポジウムに必ず出席する予定です。

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admin 医療従事者の部屋, 海外出張, 雑感

恩師、故今井久夫先生をしのんで

5 月 25th, 2009
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2004年撮影(今井先生66歳、私は44歳の年でした)

 

 先日、自室の掃除をしていたら、私が歯科医師になってすぐの頃からお世話になった今井久夫先生の文章が出てきました。先生は、大阪歯科大学歯周病学講座教授、大阪歯科大学付属病院長、大阪歯科大学学長、大阪歯科大学理事長を歴任され、私にとっては仲人、歯周病専門医試験の指導医、学位(博士号)審査教授など、人生の節目節目で大変お世話になった素晴らしい先生です。

 

 先生の人柄は温厚で、配慮に富んだ言動は多くの後輩達から支持されていました。平成19年8月16日、盛夏のさなか、享年69歳という若さで永眠されました。私にとっては歯周病学だけでなく、心の師であり、本当に残念でした。私が22年前、大阪歯科大学の歯周病学講座に入局した時、今井先生は49歳、まさに今の私の年令です。当時の今井先生と今の私を比べてみると、あまりの私の幼稚さに驚愕をおぼえたとともに、「頑張らねば!」という決意を新たにしました。これからも、「一歯一歩」を肝に銘じて歯周病治療に邁進してまいります。今井先生、本当にありがとうございました。

 

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 約10年前に高度な歯周疾患のため、70歳近い高齢患者さんの歯を抜かなくてはならないことになり、抜歯理由について種々説明したところ、1週間程度考えさせてほしいとの要望があり、次回来院時に抜歯を行うことにした。約10日後に再来院され、抜歯を行うことにしましたが、その抜歯の前に、患者さんから“私の心境を詩にしたためました”といって、詩の書かれた色紙をいただきました。そこには、

 

「凍てつきし、馬糞を食べしこの歯ども、遠き日の夢か、今抜かれてゆく」

 

と書かれてありました。後日、この詩が朝日新聞の歌壇に紹介されたのですが、この詩の意味を問うたところ、「戦後シベリアの捕虜収容所で、食べるものも満足に得られず、馬糞を食べたような歯ではあるが、自身にとっては極めて郷愁を覚える歯である。その苦しくて、悲しい日々を共に過ごした思いで深い歯が今抜かれていく、非常に寂しいことである」との心境を聞かせていただきました。

 

 そこで、私なりに考え四字熟語として「一歯一歩(いっしいちふ)」を創りました。我々は簡単に予後不良歯として、歯を抜こうとしますが、この患者さんにとっては、一本の歯が将棋の駒で言う単なる「歩」ではなく、敵の陣に入った「成り金」のような「金」の役割を演じている価値ある歯であり、思いで深い歯であることが理解でき、以後私は、一本の歯といえども、その患者さんの心境を常に考え、抜歯を行うようにしてきた。今でもこの患者さんには、教科書では学び得なかったことを教わったと感謝しております。

 





admin 医療従事者の部屋, 雑感

日本歯周病学会 春期学術大会<2009年5月15日(金)-16日(土)>の専門医教育講演に参加して思うこと

5 月 18th, 2009

認定医教育講演 5月16日(土)

 

学会では、専門医制度を設けており、専門医資格を取得したり更新したりする場合には、この教育講演に出席し、参加証明のスタンプをネームカードに押してもらうのです。それがポイントとなり、資格取得や更新には必要になります。したがって、毎回、会場に入れないほどの参加者が集まるのですが、私はすでに専門医であり、さまざまな公用からここ2年ほど参加していませんでした。今年もこれまで通り盛況だったのですが、問題は講演の最後のところです。

 

 演者の先生が最後に謝辞を述べられ、感謝状を贈呈されている時に、多くの若い先生がぞろぞろと席を立ち、出口に向かって長い列を作っているのです(写真)。このような行為は失礼極まらない話で、彼らの関心ごとは、「ただ参加証明のスタンプさえもらえばいい」としか見えません。では、そのような考えの人が専門医になる資格があるのでしょうか?

 演者の先生が、お世話になりご指導いただいた先生への謝辞を述べられたり、学会からの感謝状を受け取られるセレモニーに共感し、拍手をすることは、専門医以前、歯科医師以前に人として当然のことであると私は考えます。もしも私の考えが「古い」のであれば、それはとても残念なことです。

 私は、質問があったのですが、このような状態で質疑応答の時間も割愛され閉会したため、とても残念でした。

 

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この時点で、演者はまだ壇上にいるのです。

最後のスライドが終わる前からこのような状態でした。

 

 

日本歯周病学会 春期学術大会
岡山コンベンションセンター 5月16日(土)

 

土曜日は日本歯周病学会に出席してきました。この日の午後は、私の口腔外科の師である坪井陽一先生(元京都大学歯科口腔外科講師)が講演をされました。

 

患者さんに優しいインプラント治療とはなにか?

   ─即時負荷インプラントと低侵襲組織再生治療のコンビネーション

 

 

 

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 先生はこれまでのご自身の足跡を紹介しながら、口腔外科専門医として組織再建に取り組んできた時代から組織再生へと変化してきた背景を実際の臨床症例を提示しながら解説されました。特に、患者さんベースの治療計画の立案が重要であり、低侵襲による組織再生治療や即時負荷インプラント治療についてのお考えをお話されました。坪井先生は、講演で「私にGBR

(骨再生誘導法)を教えてくれたのは牧草先生です」と言っていただき、私はとてもうれしく思いました。

 

最後には、司馬遼太郎の文章をご紹介され講演を締めくくられました。

 時として、「あまり高尚な学問だけに身をおいていると、実際の人の社会とはかけ離れたところに行ってしまい、現実を見失ってしまうことになる」といった内容のものでした。私の考えも全く同じで、科学という言葉を自然科学だけと捉えて、患者さんの背景に眼をそむけるのは医療の本質からはずれてくると考えます。

 

 

 

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座長の鴨井久一先生(日本歯科大学名誉教授)、坪井先生と私

 

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大阪歯科大学歯周病学講座所属で当院勤務の奥野先生、阿部先生と坪井先生

 

 

admin 医療従事者の部屋, 国内出張

歯適塾 講演会 

5 月 17th, 2009
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 歯適塾 講演会

    千里ライフサイエンスセンター:5月17日(日)9時〜17時

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この講演会に参加したきっかけは、私がザ・クインテッセンス誌の4月号で書いた論文に関して、内藤正裕先生(東京都開業)から、お誉めと励ましのお電話を頂いたことです。

 

内藤先生は、「私と友人の本多正明先生(大阪府開業、SJCD大阪最高顧問)の二人が大阪で講演するので、聞きにこないか?」とおっしゃり、私と牧草歯科医院副院長の岡村 大先生の2人で参加してきました。また、本日(5月18日)にはお礼のお電話まで頂き、本当にありがとうございました。

 

まず、朝のスタートから衝撃を受けたのは、内藤先生のオープニングトークでした。内藤先生のお話は、思想哲学についてでした。

 

「今ここにある形、思想は前後にある歴史的プロセスである」というヘーゲルの言葉の引用からスタートし、絶えず進行している現在、ベースとなる「マルクスの人文科学、社会科学」、「ダーウィンの自然科学、進化論」に思いをはせ、その上で、科学(Science)の一分野である自然科学、その一分野である医学、そのまた一分野である歯科医学を考えたとき、やはり人文科学や社会科学を無視して歯科医学は存在しえないということです。

さらに、細胞を対象とする医学に対して、細胞と無細胞性の「モノ」との融合を図るのが歯科医学であるとのことです。

 

 

 

内藤先生のオープニング講演要旨

 

 いくら拡大を重ねて人体の構造を分析しても、システムとしての人体、情報を所有するヒトというものの本質は理解できない。「眼に見えないもの」によって構造化された「眼に見えると思われるもの」を捉える構造主義的な視点から、科学とは、事実と「思われる」ものを観察しているにすぎない。

 われわれは、本当に事物を客観的に観察できているのだろうか? その答えは「ノー!」である。常にわれわれは、経験、負荷、時代背景などにより某かのバイアスがかかっていることを知るべきである。科学は客観的であるという人がいるが、では「客観的」とは何か? 全ての事実は素のままの裸の状態ではなく、「〜として」見ているのである。真に「客観的に観察」するということは、理論を背負っていることになる。そして、「データ」と呼ばれるものは、理論の後に生み出されるものである。

 

 

 

牧草の感想

 

自然科学偏重主義、データ偏重主義への警鐘は圧巻であり、本当に私の心を打ちました。

「最新」を錦のみ旗にテクニックや商品の紹介に終始してみたり、正確な分析もなく論文を自分の都合の良いように解釈して、それをエビデンスだと声を荒げる講演者が多い中で、内藤先生のような思想哲学を説く先生は、先を急ぎすぎる現在の歯科界では「至宝」だと思いました。

 

この話は奇しくも前日の坪井陽一先生のお話とも完全に符合するのです。

私は本当に嬉しく思いました。心ある先生はたくさんいるのです。

 

 

 

内藤先生のご講演

 

 修復の永続性 −オーバーロードの観点から−

 

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内藤先生のお話でとても興味深かったのは、「拡大機器(ルーペ、マイクロスコープ)は、小さいものが大きく見えることを目的としているのではなく、見えなかったものが見えるようになることを目的としているのである。」というお話でした。

 

私も全く同感で、単に拡大鏡であれば、「みなさんは高い虫眼鏡を買われるのだなあ!」と思っていたのですが、「見えなかったものが見えるようになる」道具であれば極めて有用なものだと感じました。もちろん、そうであれば歯や歯周組織の組織学や解剖学が身に付いていなければ使う意味がありませんよね!

 

また、先生のお話は、単に補綴の話にとどまらず、機能つまり摂食嚥下にまで及び、美しい補綴物の製作が最大の目標ではなく、機能的な補綴物の製作、その永続性がセットになってこその補綴治療であるとのお話は共感できるものでした。

 

さらに、オーバーローディングとそれがもたらすさまざまな問題点について詳細に解説され、非常に有意義なお話をたくさん聞くことができました。

 

 

 

本多先生のご講演

 

 欠損補綴の目的

 

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治療にあたって重要なことは、「原因の考察」と「病態の把握」であるとのお話からスタートし、実際の欠損補綴の治療計画の考え方をブリッジ、義歯、インプラントについて、利点と欠点を詳細に解説されました。

特に、無髄歯への対応は極めて重要であり、ブリッジの支台歯としては慎重になるべきであるとのことでした。

 

さらに、最近のインプラントの発表では、若い先生が前歯の審美的なインプラントの治療結果を提示されてはいるが、全体的な咬合の診査をしているというコメントをどなたもされていないことに危惧するコメントをされており、この点は内藤先生も同じことをご指摘されていました。

 

本多先生の講演を拝聴して素晴らしいと感じたことは、症例スライドの向こう側に「患者さんが見える」ということです。

私がよく見る講演スタイルは、ひたすらテクニックの解説が続き、その患者さんは何を解決したいと考え、何を希望されているのかがわからないものです。

確かに素晴らしいテクニックではあるのですが、それを聞いた若い先生はそのテクニックを実際の臨床でどの患者さんにどのように使ったらいいのかわかりません。

 

最後に本多先生は、医療には、患者さんの協力が必要で、患者さんの有意識下での協力なくしては治療の成功はない(認知行動療法)とのお話しされました。

 

私自身の反省を込めて、本当に素晴らしいお話を聞かせていただき感謝いたしています。

 

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admin 医療従事者の部屋, 講演・執筆