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歯適塾 講演会 

5 月 17th, 2009
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 歯適塾 講演会

    千里ライフサイエンスセンター:5月17日(日)9時〜17時

 20090518-1

 

この講演会に参加したきっかけは、私がザ・クインテッセンス誌の4月号で書いた論文に関して、内藤正裕先生(東京都開業)から、お誉めと励ましのお電話を頂いたことです。

 

内藤先生は、「私と友人の本多正明先生(大阪府開業、SJCD大阪最高顧問)の二人が大阪で講演するので、聞きにこないか?」とおっしゃり、私と牧草歯科医院副院長の岡村 大先生の2人で参加してきました。また、本日(5月18日)にはお礼のお電話まで頂き、本当にありがとうございました。

 

まず、朝のスタートから衝撃を受けたのは、内藤先生のオープニングトークでした。内藤先生のお話は、思想哲学についてでした。

 

「今ここにある形、思想は前後にある歴史的プロセスである」というヘーゲルの言葉の引用からスタートし、絶えず進行している現在、ベースとなる「マルクスの人文科学、社会科学」、「ダーウィンの自然科学、進化論」に思いをはせ、その上で、科学(Science)の一分野である自然科学、その一分野である医学、そのまた一分野である歯科医学を考えたとき、やはり人文科学や社会科学を無視して歯科医学は存在しえないということです。

さらに、細胞を対象とする医学に対して、細胞と無細胞性の「モノ」との融合を図るのが歯科医学であるとのことです。

 

 

 

内藤先生のオープニング講演要旨

 

 いくら拡大を重ねて人体の構造を分析しても、システムとしての人体、情報を所有するヒトというものの本質は理解できない。「眼に見えないもの」によって構造化された「眼に見えると思われるもの」を捉える構造主義的な視点から、科学とは、事実と「思われる」ものを観察しているにすぎない。

 われわれは、本当に事物を客観的に観察できているのだろうか? その答えは「ノー!」である。常にわれわれは、経験、負荷、時代背景などにより某かのバイアスがかかっていることを知るべきである。科学は客観的であるという人がいるが、では「客観的」とは何か? 全ての事実は素のままの裸の状態ではなく、「〜として」見ているのである。真に「客観的に観察」するということは、理論を背負っていることになる。そして、「データ」と呼ばれるものは、理論の後に生み出されるものである。

 

 

 

牧草の感想

 

自然科学偏重主義、データ偏重主義への警鐘は圧巻であり、本当に私の心を打ちました。

「最新」を錦のみ旗にテクニックや商品の紹介に終始してみたり、正確な分析もなく論文を自分の都合の良いように解釈して、それをエビデンスだと声を荒げる講演者が多い中で、内藤先生のような思想哲学を説く先生は、先を急ぎすぎる現在の歯科界では「至宝」だと思いました。

 

この話は奇しくも前日の坪井陽一先生のお話とも完全に符合するのです。

私は本当に嬉しく思いました。心ある先生はたくさんいるのです。

 

 

 

内藤先生のご講演

 

 修復の永続性 −オーバーロードの観点から−

 

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内藤先生のお話でとても興味深かったのは、「拡大機器(ルーペ、マイクロスコープ)は、小さいものが大きく見えることを目的としているのではなく、見えなかったものが見えるようになることを目的としているのである。」というお話でした。

 

私も全く同感で、単に拡大鏡であれば、「みなさんは高い虫眼鏡を買われるのだなあ!」と思っていたのですが、「見えなかったものが見えるようになる」道具であれば極めて有用なものだと感じました。もちろん、そうであれば歯や歯周組織の組織学や解剖学が身に付いていなければ使う意味がありませんよね!

 

また、先生のお話は、単に補綴の話にとどまらず、機能つまり摂食嚥下にまで及び、美しい補綴物の製作が最大の目標ではなく、機能的な補綴物の製作、その永続性がセットになってこその補綴治療であるとのお話は共感できるものでした。

 

さらに、オーバーローディングとそれがもたらすさまざまな問題点について詳細に解説され、非常に有意義なお話をたくさん聞くことができました。

 

 

 

本多先生のご講演

 

 欠損補綴の目的

 

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治療にあたって重要なことは、「原因の考察」と「病態の把握」であるとのお話からスタートし、実際の欠損補綴の治療計画の考え方をブリッジ、義歯、インプラントについて、利点と欠点を詳細に解説されました。

特に、無髄歯への対応は極めて重要であり、ブリッジの支台歯としては慎重になるべきであるとのことでした。

 

さらに、最近のインプラントの発表では、若い先生が前歯の審美的なインプラントの治療結果を提示されてはいるが、全体的な咬合の診査をしているというコメントをどなたもされていないことに危惧するコメントをされており、この点は内藤先生も同じことをご指摘されていました。

 

本多先生の講演を拝聴して素晴らしいと感じたことは、症例スライドの向こう側に「患者さんが見える」ということです。

私がよく見る講演スタイルは、ひたすらテクニックの解説が続き、その患者さんは何を解決したいと考え、何を希望されているのかがわからないものです。

確かに素晴らしいテクニックではあるのですが、それを聞いた若い先生はそのテクニックを実際の臨床でどの患者さんにどのように使ったらいいのかわかりません。

 

最後に本多先生は、医療には、患者さんの協力が必要で、患者さんの有意識下での協力なくしては治療の成功はない(認知行動療法)とのお話しされました。

 

私自身の反省を込めて、本当に素晴らしいお話を聞かせていただき感謝いたしています。

 

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admin 医療従事者の部屋, 講演・執筆