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恩師、故今井久夫先生をしのんで

5 月 25th, 2009
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2004年撮影(今井先生66歳、私は44歳の年でした)

 

 先日、自室の掃除をしていたら、私が歯科医師になってすぐの頃からお世話になった今井久夫先生の文章が出てきました。先生は、大阪歯科大学歯周病学講座教授、大阪歯科大学付属病院長、大阪歯科大学学長、大阪歯科大学理事長を歴任され、私にとっては仲人、歯周病専門医試験の指導医、学位(博士号)審査教授など、人生の節目節目で大変お世話になった素晴らしい先生です。

 

 先生の人柄は温厚で、配慮に富んだ言動は多くの後輩達から支持されていました。平成19年8月16日、盛夏のさなか、享年69歳という若さで永眠されました。私にとっては歯周病学だけでなく、心の師であり、本当に残念でした。私が22年前、大阪歯科大学の歯周病学講座に入局した時、今井先生は49歳、まさに今の私の年令です。当時の今井先生と今の私を比べてみると、あまりの私の幼稚さに驚愕をおぼえたとともに、「頑張らねば!」という決意を新たにしました。これからも、「一歯一歩」を肝に銘じて歯周病治療に邁進してまいります。今井先生、本当にありがとうございました。

 

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 約10年前に高度な歯周疾患のため、70歳近い高齢患者さんの歯を抜かなくてはならないことになり、抜歯理由について種々説明したところ、1週間程度考えさせてほしいとの要望があり、次回来院時に抜歯を行うことにした。約10日後に再来院され、抜歯を行うことにしましたが、その抜歯の前に、患者さんから“私の心境を詩にしたためました”といって、詩の書かれた色紙をいただきました。そこには、

 

「凍てつきし、馬糞を食べしこの歯ども、遠き日の夢か、今抜かれてゆく」

 

と書かれてありました。後日、この詩が朝日新聞の歌壇に紹介されたのですが、この詩の意味を問うたところ、「戦後シベリアの捕虜収容所で、食べるものも満足に得られず、馬糞を食べたような歯ではあるが、自身にとっては極めて郷愁を覚える歯である。その苦しくて、悲しい日々を共に過ごした思いで深い歯が今抜かれていく、非常に寂しいことである」との心境を聞かせていただきました。

 

 そこで、私なりに考え四字熟語として「一歯一歩(いっしいちふ)」を創りました。我々は簡単に予後不良歯として、歯を抜こうとしますが、この患者さんにとっては、一本の歯が将棋の駒で言う単なる「歩」ではなく、敵の陣に入った「成り金」のような「金」の役割を演じている価値ある歯であり、思いで深い歯であることが理解でき、以後私は、一本の歯といえども、その患者さんの心境を常に考え、抜歯を行うようにしてきた。今でもこの患者さんには、教科書では学び得なかったことを教わったと感謝しております。

 





admin 医療従事者の部屋, 雑感